ガンブロ ルンディア アー・ベー「血液浄化のための膜」を読んでみた

ガンブロ  ルンディア  アー・ベー「血液浄化のための膜」(出願番号:2020-78062)を、自分なりにまとめてみました。

ガンブロは、米医薬品・医療機器大手バクスターに買収されたスウェーデンの血液透析機械・器具の製造および販売会社であり、透析に関する特許を何件か出しています。今回は、血液透析装置に使用される膜の発明に関する特許です。

【本発明の課題】
血液透析による血液浄化に好適であり、大きい分子を除去する能力が高く、同時にアルブミンを効果的に保持する半透性膜の製造方法および医学的適用における膜の使用を提供する。

【従来の膜の課題】
・高カットオフ膜と高流束膜との間にギャップがあり、現時点では、そのギャップを埋める入手可能な膜が存在しない。このギャップを埋められる膜は、工業生産として実現不可能な方法でしか調製することができなかった。
・従来の膜では、慢性患者に対するアルブミン損失が許容できる範囲でありながら、中位および大きい尿毒症性溶質を除去することができなかった。
・膜が乾燥する前に塩溶液で処理されていた。

【解決手段】
本膜は、デキストランふるい曲線によって求められた、9.0kDから14.5kDの間の分子の保持開始(MWRO)および55kDから130kDの間の分画分子量(MWCO)を特徴とし、工業的に実現可能な方法によって、乾燥する前の塩による処理を排除して調製され得る。

【本発明の特徴】
大分子を除去する能力が高く、同時にアルブミンを効果的に保持する半透性膜である。
⇒大分子を除去し、アルブミンを効果的に保持する膜とは?
・小分子は、主に血流と透析流体流の間の濃度差による拡散によって除去される。中分子は、主に限外濾過による対流によって除去される。大分子は、主にHF(血液濾過)によって除去される。最大分子は高カットオフ膜の血液透析モードによって除去される。
・図1より、本発明の膜は、血液透析モードにおいてIL-6およびλ-FLCなどの大分子を除去でき、かつ最大分子であるアルブミンのような必須タンパク質は実質的に保持できることが分かる。
・図4(ふるい曲線)より、本発明の膜は分子量がより高い分子をより効果的に除去する能力が高カットオフタイプ膜とほぼ同じであり、かつ高カットオフ膜と比較してアルブミンの保持がより効果的であることが分かる。

・血液が膜に接触する前にデキストランふるいによって測定された9.0kDaから14.0kDaの間の分子の保持開始および55kDaから130kDaの間の分画分子量を有する。
⇒なぜ血液が膜に接触する前に測定するのか?
合成膜のふるい性質は、血液と膜との接触の際に変化する場合があるため。仮にタンパク質が膜表面に接着すると、タンパク質層が膜の上に作られる。この二次的な層は、膜への物質輸送の障害としても作用し、この現象は一般にファウリング(治療時間経過に伴う膜の目詰まり)と呼ばれている。
⇒なぜデキストランが使われるのか?
非毒性、安定性、不活性であり、広範囲の分子量で利用可能であるため。図3を見ると、ふるい曲線を作成するための濾過実験をする際に、濾過装置でマーカー溶質(デキストラン溶液)として使用されていることが分かる。
9.0kDaから14.0kDaの間の分子の保持開始および55kDaから130kDaの間の分画分子量を有するとは?
図2(デキストランふるい測定の結果)を見ると、本発明の膜が、サイズの異なる2つの四角形の中に含まれている。従来技術の高流束膜と高カットオフ膜の間に位置する膜のグループを形成していることが分かる。

・膜を製造する過程において、乾燥ステップの前に塩溶液で処理せずに膜が作られる
⇒従来は、膜を製造する過程で塩溶液の処理をしていたとのこと。なぜか?
欧州特許出願公開第2253367号明細書には、中空糸膜の製造工程で、洗浄と乾燥の工程の間で中空糸膜を塩溶液で処理していて、この工程により性能が向上した膜が得られるとの記載があった。他の関連特許明細書を読んでいくと、塩溶液で処理(塩水からなる凝固浴に浸漬、塩漬処理)を行うことにより、脱水し、緻密層をより一層緻密化して安定化できることが分かった。塩漬処理を行うことで、水と水溶性溶剤の交換速度を低下させ、急速な構造固定による膜表面への緻密層形成を抑制した多孔膜の成形が可能となる。塩濃度が高くなるほど、水と水溶性溶剤との交換速度は低くなり、得られる膜の表面細孔数及び表面細孔径は大きくなる。
⇒なぜ塩溶液なのか?
塩化物は高分子などの有機物に比べて、濃度あたりの浸透圧が高く、水に対する溶解性が高いため、高濃度で用いることができるから。濃度が高すぎると、膜のゲル構造が破壊されて水透過性が低下することがある。また、濃度が低すぎると、塩漬処理の効果が不十分となる。
⇒なぜ乾燥する前に塩溶液による処理を排除したのか?
塩による処理を排除することで、工業規模で使用され得る方法が利用可能になったことに加えて、MWCOおよびMWROに関して、より一層明白な利点を示す膜が得られると記載されている。高カットオフ膜と高流束膜との間にあるギャップに位置できる膜は、今まで工業生産として実現不可能な方法でしか調製できなかったとあるので、おそらく塩による処理を排除することで工業的に調整ができるようになったことが理由なのではないかと思う。ただ、塩による処理を排除した詳細な理由については記載がなく、調べてもよく分からなかった。別の特許明細書に、低揮発性有機液体を用いずに乾燥させる方法として、低揮発性有機液体の代わりに無機塩を用いる方法がある。ただ微量であるとしても残存した無機塩が透析患者に与える悪影響が危惧されるとの記載があり、塩溶液による処理にリスクがあったことが分かった。

【キーワード】
★アルブミン
血液中のタンパク質の一種で、総たんぱくの約6割を占める。栄養・代謝物質の運搬、浸透圧の維持などの働きを行う。大きい血液成分。

★半透性膜
一定の大きさ以下の分子またはイオンのみを透過させる膜。
本発明: 少なくとも1種の疎水性ポリマー成分、親水性ポリマー成分および溶媒を含むポリマー溶液から調製されている。

★デキストラン
グルコースのみからなる多糖類の一種。分解、精製工程を適切に調節することにより、用途に応じて異なった分子量を持つ製品を製造することが可能。

★インビトロ特性決定
インビトロとは、試験管や培養器などの中でヒトや動物の組織を用いて、体内と同様の環境を人工的に作り、薬物の反応を検出する試験のこと。
本発明:血液浄化用膜のインビトロ特性決定は、小分子および中分子ならびにアルブミンの除去率の測定を含む。

★デキストランふるい曲線
溶質の分子量とふるい係数(または反発係数)の関係を表した曲線 。分画曲線ともいう。
本発明:膜の性能をよく説明し、特定の目視不可能な膜の構造を説明している。曲線の形状は孔径分布を表し、分子量軸上のその位置は孔のサイズを示す。MWCO値およびMWRO値を測定することで、透析装置の低流束タイプ、高流束タイプ、タンパク質漏出タイプ、高カットオフタイプと、本発明の膜とを差違化することができる。

★ふるい係数(SC)
濾過によって膜を透過するのは溶媒の水だけではなく、膜の細孔より小さな溶質も運ばれる。膜の細孔径に溶質径が近づくにつれ、溶質の一部は溶媒である水と一緒に運ばれるものの、残りは膜で阻止されるような現象がみられてくる。この透過の程度を表す指標。

★膜のふるい性質
溶質に対するその透過性は、孔径によって決まり、流体流と一緒に膜を通って引きずられ得る溶質について最大サイズを定める。溶質のサイズがその分子量に比例するとすれば、ふるい係数を分子量の関数として表すふるい曲線を作成することで膜の性質を説明する。

★保持開始(MWRO)
本発明:膜が10%の阻止率を有し、または膜が溶質の90%を通過させ、ふるい係数0.9に相当する場合の、溶質の分子質量を指す。MWROは、どこで孔径分布が始まるかを示す値。

★分画分子量(MWCO)
本発明:膜の保持能力を表す値。膜が90%の阻止率を有し、または膜が溶質の10%を通過させ、ふるい係数0.1に相当する場合の溶質の分子質量を指す。MWCOは、どこで孔径分布が終わるかを示す値。

★タンパク質漏出膜
本発明:第3のタイプ。水透過性が低流束膜の水透過性と類似しており、小分子から中分子を除去する能力が高流束膜と類似しており、アルブミン損失は高流束膜のアルブミン損失より一般に多い。

★高カットオフ膜
本発明:第4のタイプ。高機能の透析装置で利用されている。敗血症の処置、慢性炎症、アミロイドーシスおよび横紋筋融解ならびに貧血の処置、骨髄腫腎患者の処置を含む。膜の選択層表面で孔半径が8~12nmの間である。

★小分子
小分子量物質(500Da未満)。アンモニア、水分、電解質、乳酸、尿毒症物質、クレアチニン、糖分。 除去効率はHD(血液透析)が優れる。

★中分子
中分子量物質(500〜5000Da)。ビリルビン、ビタミン、β2-マイクログロブリン、ミオグロビン。除去効率はHDF(血液透析濾過)が優れる。腎不全内に蓄積し、尿毒症性中毒状態の一因となっている。

★大分子
大分子量物質(低分子蛋白)(5000〜50000Da)。β2ミクログロブリン、エンドトキシン、炎症性サイトカイン、α1ミクログロブリン、肝性昏睡物質、κ-FLC、インターロイキン-6、λ-FLC。除去効率はHF(血液濾過)が優れる。

★Da
O. Daltonにちなんだ単位。タンパク質などの巨大分子で,厳密な分子量が求めにくいものの大きさをいうときの単位。分子量の単位ではない。分子量が約60000のタンパク質のサイズは60000 Da または60 kDa と表せる。

【図1】種々の血液浄化用膜および操作モードによって除去される小分子溶質、中分子溶質および大分子溶質を比較した全体略図。
【図2】MWROがMWCOに対してプロットされている、デキストランふるい測定の結果を示す図。
【図3】濾過実験の実験装置の略図。
【図4】デキストランふるい曲線。
【図5と図6】本発明による膜AとFの走査型電子顕微鏡写真

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レバレッジ特許翻訳講座、10期生。2020年10月より講座を開始しました。 海外在住12年間。小学生と保育園の2人の子どもがいるワーキングマザーです。 「勉強」「育児」「仕事」「家事」のバランスを考えながら日英特許翻訳者を目指します。