東レの「分離膜デバイスおよびその製造方法」を読んでみた

東レの「分離膜デバイスおよびその製造方法」(出願番号:2019-205179)を、自分なりにまとめてみました。人工透析を行う際に使用される分離膜デバイスの発明について記載された特許です。

【本発明の課題】
従来のデバイスの課題を考慮し、吸着剤と被処理液の接触を抑制し、かつ除去対象物質を効率的に除去することが可能である、分離膜デバイスを提供する。

【従来のデバイスの課題】
・カラム内に充填したリン吸着剤が溶出し、体内に入るのを防ぐために、下流に活性炭カラムを設置。生体に必要なカルシウムイオンまで除去されてしまい、カルシウム提供部をさらに設置するという非常に複雑なシステムだった。
・透析液中の吸着剤が沈降し、均一に分散した状態を維持できなかった。
・吸着剤を含む透析液によって除去対象物質を十分に除去するためには、多量の吸着剤が必要だった。

【解決手段】
中空糸膜と、前記中空糸膜を覆うケーシングとを備え、前記中空糸膜の外側表面の平均細孔径(Do)と、内側表面の平均細孔径(Di)とが、Do>Diの関係を満たす内側緻密構造を有するものであり、さらに、外側表面の細孔に、平均粒径が0.01μm~10μmの範囲内である粉粒体が含まれてなる、分離膜デバイス。

【本発明の特徴】
中空糸膜の外側表面の平均細孔径が内側表面の平均細孔径よりも大きい、内側緻密構造。
⇒外側表面の平均細孔径>内側表面の平均細孔径
 細孔の大きさが違うのはなぜか?
透析膜の多くは、非対称膜(膜の内面から外面の一方に緻密層、他方に多孔質層が存在する膜)である。この発明は、血液が通る管の内側が緻密層で透析液が通る外側が支持層となっているので、内部の多孔性やグラジエント構造を持つ支持層と表面付近に存在する緻密(活性)層の二重構造であることが分かった。内部の多孔性なら膜に機械的強度を与え、グラジエント構造なら透水性,溶質透過性などの物質移動を規定する。

吸着剤が無機粒子(希土類炭酸塩等)を含む。
⇒なぜ無機粒子なのか?特に希土類炭酸塩がよいのはなぜか?
除去対象物質がリン酸などのイオン性の低分子化合物の場合、希土類炭酸塩だと水への溶解性が低く、pH変化が小さく、さらにイオン性の低分子化合物の吸着性能が高くなるため。
除去対象物質が尿毒素の場合は、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン等がよい。

中空糸膜の外側表面の細孔に、平均粒径が0.01μm~10μmの範囲内である粉粒体が含まれている。
⇒粉粒体の平均粒径≧2×中空糸膜の外側表面の細孔における平均細孔径
 なぜ、平均粒径が中空糸膜の外側細孔径より大きいのか?
 粉粒体が細孔を通過して血液に溶出するリスクがあるため。また、膜に粒子が捕捉されて導入効果を高くすることができる。一方で、平均粒径をできるだけ小さくすることで、比表面積が大きく吸着効果が高くなり、外側表面の細孔内に入りやすくなる。

中空糸膜の外側表面をポリマーゲルで覆い、粉粒体を固定することで、粉粒体が中空糸膜から剥離し血液と接触することを抑制し、除去性能の低下を抑えることができる。
⇒なぜ接触を抑制するのか?
 <東レ「多孔質繊維および吸着カラム」(出願:2018-516080)を参照>
 血液中の除去対象物質を吸着除去するため、吸着剤として粉粒体が使われてきた。粉粒体の吸着性能をあげるために、粉粒体と血液の距離を極力近づける必要がある。しかし、直接接触すると、血液が流れる力で粉粒体が損傷したり、そのまま血液と流されてしまったり、血液の意図しない活性化を招くリスクがある。そのため粉粒体の位置と、血液中の除去対象物質を粉粒体に導くための流路設計が重要。

粉粒体の中空糸膜の外側表面における充填率:5%~90%

本発明の分離膜デバイスは、単独でも、除水カラムと直列に繋いだ血液浄化システムとしても使える。人工腎臓のみでは除去が不十分である物質、例えば無機リンを吸着除去することで人工腎臓の機能を補完できる。

【キーワード】
★分離膜デバイス
大きさの違う成分を細孔の大きさの違いで分ける膜の装置。
本発明:吸着剤をカラムに装填した分離膜デバイス。人工腎臓と組み合せて、血液浄化システムとして用いることができる。

★カラム               
血液浄化用浄化器。

★除水カラム
本発明:血液中の水分を除去するカラム。透析液を使用せずに、人工透析と同様に水分および、水分以外の老廃物を除去することができる。
⇒⇒⇒透析液にはRO水という不純物やイオン成分を一切除去した純水が、1回の透析につき100L以上使われる。使用された水の再利用は難しいとのこと。透析液を使用せずに人工透析と同様の効果が期待できる、この除水カラムが使えれば水の節約につながるのではないかと思った。

★吸着剤(粉粒体)
表面に他の物質を吸着する性質の強い物質。
本発明:血液中の有害な物質を吸着できる粉粒体。有害な物質とは、例えば、腎疾患を有する患者に適用される場合には、患者の体内に沈積している老廃物(リン酸、尿素、尿酸、クレアチニン、インドキシル硫酸、ホモシステインなど)。
水への溶解性が低い方がいい。血液のpHに影響することがないようにpH変化が小さい方がいい。吸着効率を高めるため、分散媒に可能な限り多く含まれる方がいい。

★中空糸膜            
化学繊維で作った中心部が空洞のストロー状になったものの表面に無数の繊細な穴をあけたもの。表面に細孔を有することで、細孔のサイズに応じて透過する物質と透過しない物質を選択分離できる。                                 
本発明:主成分である疎水性高分子と、親水性高分子が配合された高分子材料で構成されている。

★ケーシング       
本発明:中空糸膜を収納するプラスチックや金属等で作られた筒形の圧力容器。

★ポリマーゲル
高分子が架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒を吸収し膨潤したゲル。
本発明:ポリマーゲルはポリマーを架橋して作製することができる。
γ線を照射して架橋させる方法と化学的な反応を用いて架橋させる方法がある。化学的な反応では、カチオン性のポリマーとアニオン性のポリマーを反応させてゲルを作製する。カチオン性ポリマーは分子中にカチオン性基を有し、分子の大きさが膜の細孔径よりも小さいと膜内に保持しやすくなる。

図1:分離膜デバイスの一実施形態を例示する縦断面図
図2:浄化カラムに使用される、粉粒体を含む中空糸膜の軸に直行した方向の断面図

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ABOUTこの記事をかいた人

レバレッジ特許翻訳講座、10期生。2020年10月より講座を開始しました。 海外在住12年間。小学生と保育園の2人の子どもがいるワーキングマザーです。 「勉強」「育児」「仕事」「家事」のバランスを考えながら日英特許翻訳者を目指します。